野生鳥獣研究所けものら金山俊作さん

人と動物が健康に暮らす

獣医の知識を活かして、人、動物、環境全てが健康に共存できるワンヘルスの世界を生み出す

お医者さんだけではない獣医さんの役目

獣医師の資格を持ちながら、野生動物を使用した研修や、野生動物の研究の補助を行う「けものら」を運営している金山さん。高校までは家業を継ぐ予定でしたが、当時の生物の先生が面白く、動物のバリエーションやユニークな体の仕組みに惹かれ獣医さんを目指すようになりました。大学では獣医学を学び卒業後は動物病院に勤めましたが、その後は家業を少し手伝った後に、農林水産省で鳥インフルエンザや豚熱などの感染症対策を行うお仕事をしていました。しかし、動物の感染症に対する日本の対策制度に疑問を持ち、感染症を蔓延させない、発生させないための根本を改善するべく退職。丹波篠山で「地域おこし協力隊」として活動しながら「けものら」をスタートしました。

他人事じゃない動物の感染症

鳥インフルエンザなどの感染症は基本的に、野生動物から感染が広がっており、その原因は人間にあるとも言われています。金山さんは幼少期、田舎で育ち生活の中で動物を見ることもありましたが、近年、昼からイタチやアナグマが里山を走り抜けている光景は珍しく、驚いているそうです。動物自体も生物多様性が失われ、ハクビシンやアライグマ、タヌキ、キツネなど中型の肉食哺乳類が増え、ウサギなどの草食の小型動物が減ってきています。里山では人口が減少し人間が使用しない場所が増えたことで、動物は里へ降り、人口減少、少子高齢化などから人間は山へ足を運ばなくなる、双方の自然環境の乱れから、動物と人間との生活区域の境界線が曖昧になってきています。境界線が崩れることで、人口が減った里山では食料を探しに中型動物が降りてきてゴミや土を掘り起こすことで、食べ物や海外のお土産などから持ち込まれた病気が野生動物に移り、感染が広まっていくのです。日本では野生動物についての研究がされておらず、どの場所に何匹の野生動物が生息しているか確かな数字も出ていません。また、感染が拡大した場合、感染した動物を殺処分する、今後感染しないようにワクチンを打つなど、感染が拡大しない対策は取られているものの、感染源を対処する動きのない現状を金山さんは問題視しています。もし仮に、野生動物が多く生息する里山で、人間にも感染する狂犬病が広まった際には、里山活動は停止し、感染症が蔓延している里山には「怖くて住めない」と、人口の減少、里山が無くなてしまう可能性も出てきます。だからこそ、狂犬病など、人間にも移る感染症が日本に入ってきた際には、野生動物の何%が狂犬病に罹っているのか、どの場所で感染が広まっているのかなど、根本を調査する体制やデータを取得するべきであり、このような、最悪の事態にならないように、動物と人間が共存できる場所を作る必要があるのです。

ワンヘルスの精神で生み出す社会

昔は里山での人々の生活が豊かであったことで、山、田畑、居住と言った、野生動物が暮らす山と、人が暮らす居住の場所が田畑を介してしっかり別れていましたが、現代では里山が衰退していき、動物がどんどん人の生活区域まで降りてきてしまっているのが現状です。そのような中、動物を駆除していくのではなく、獣医学から人、動物、環境全てが健康に暮らせる「ワンヘルス」の概念で取り組みを行い、また、自然環境を住民が自分ごととして考え、地域で環境を守りながら、人の手を加えていく「ローカルワンヘルス」を推奨し、全国に広がっていくことを目指しています。今後金山さんは、獣医の視点からさまざまな活動を行っていきたいと仰っていました。


野生鳥獣研究所 けものら

金山 俊作さん

丹波篠山を拠点とし、「野生鳥獣研究所けものら」で活動をしている。獣医の資格を活かし、動物と人間が健康に共存できる社会を目指し、まずは野生動物に付く病気やダニの駆除を行っていきたい。